VisRef研究 – 保育実践における動画振り返りツール

保育現場で使える動画振り返りツール「VisRef」の継続使用効果を検証した研究の解説ページです。


研究概要

この研究は、保育現場で使える動画振り返りツール「VisRef」を継続的に使用することで、保育士の振り返りの質がどのように変化するかを検証したものです。千葉県君津市の公立保育園で、平均21.6年の経験を持つ5名の保育士を対象に、2回のサイクルで実験を行いました。

研究の目的
VisRefの継続使用と異なる実施方法が、保育士の振り返りプロセスや保育実践にどのような効果をもたらすかを明らかにすること


VisRefとは?

VisRefは、スマートフォンとスマートウォッチを組み合わせた動画振り返り支援ツールです。保育中に気になった場面を簡単に記録し、後で振り返ることができます。

主な機能

機能 説明
即座の記録 スマートウォッチで保育中にワンタッチで記録。両手がふさがっていても大丈夫
簡単操作 子どもから目を離さずに記録できる直感的なインターフェース
Web閲覧機能 記録した動画をクラウドで管理し、チームで共有・振り返り
付箋機能 重要な場面にメモを残して、振り返りを効率化

研究方法

参加者

  • 対象: 公立保育園の保育士5名(園長、主任保育士、担任保育士など)
  • 経験年数: 16〜30年(平均21.6年)
  • 園児数: 約10名(2〜6歳児)

実施内容(2サイクル実施)

  1. 準備: ツールの説明と操作方法の習得
  2. 撮影: 朝8:30から約1時間の室内遊びを記録
  3. 事前振り返り: 個人で動画を確認(第1サイクルのみ)
  4. ワークショップ: チームで動画を見ながら振り返り

重要な変更点
第2サイクルでは、作業負担を減らすため事前振り返りを省略し、ワークショップ中に動画を選択。また、ファシリテーターを研究者から保育士に変更しました。


主な結果

1️⃣ 振り返りの質的変化

表面的な行動観察から、子どもの内面理解や発達的視点へと深化。技術的な成長や意図の理解が増加しました。

第1サイクルの発話例:
– “I-ちゃんは最初やらないと言っていたが、遊びに取り組むうちに紙切りをやりたいと言った”

第2サイクルの発話例:
– “I-ちゃんは紙を折って切るのが上手で、折り方を色々変えてハサミの先端を使って複雑な形を作っていた”
– “I-ちゃんは自分でやりたいと思っている”
– “I-ちゃんは自分のルールでやりたいと思っている”

2️⃣ チーム対話の深化

個別の気づき共有から、チェーン型の解釈構築へ発展。互いの意見に補足や解釈を加え合う対話が増加しました。

対話の例:
– 質問: “T-ちゃんはO-ちゃんがやっているのを見て学んだのかな?”
– 返答: “T-ちゃんは見本に従っている。I-ちゃんも見本に従ったけど、折り方は工夫している”

3️⃣ ツール活用方法の変化

「探索」から「洞察」へと質的に変化。基本機能の習得から、子どもの詳細な行動観察へ焦点が移りました。

4️⃣ 実践への影響

具体的な保育改善が報告されました:
– “子どもをよく観察できる位置に保育士が立つようになった”
– “静かに過ごしているように見える子どもへの視点の保ち方を意識するようになった”


データで見る変化

TSRI(技術支援型振り返り指標)の変化

ツールが振り返りにどれだけ貢献しているかを測る指標です:

指標 第1サイクル 第2サイクル 変化
洞察(Insight) 9.5点 9.8点 +0.3点 ✨
探索(Exploration) 8.8点 8.2点 -0.6点
比較(Comparison) 10.3点 9.6点 -0.7点
合計スコア 28.5点 27.6点 -0.9点

解釈
ツールに慣れることで、機能の探索から意味の理解(洞察)へと焦点が移行。より深い振り返りが可能になったことを示しています。

保育士の声

第1サイクル

  • “動画ビューワーの使い方が最初はよくわからず困った”
  • “対象児を意識的に関わるようになった”

第2サイクル

  • “子どもの詳細な行動を見たかった”
  • “子どもをじっくり観察したかった”
  • “前回より負担を感じなくなった”
  • “画質向上やズーム機能があれば更に良い”

研究から分かったこと

継続使用の効果

✅ 操作負担感が減少し、ツール使用が自然な活動に
✅ 基本機能の探索から専門的な保育観察への移行
✅ 効率的な振り返りから深い観察と洞察への質的変化

実施方法の違いによる影響

事前振り返りの省略

ワークショップ中の動画視聴方法が変化し、子どもの詳細な行動への注目が増加

保育士によるファシリテーション

より実践的な課題に焦点を当てた自由な議論が展開。チーム内の経験的知識を活用した深い対話が促進されました。

重要な発見
これらの変化は、継続使用と実施方法の違いが複雑に相互作用した結果です。効果的な振り返り実践を確立するには、両方の最適な組み合わせを検討することが重要です。

変化の要因分析

観察された変化 継続使用 事前振り返り省略 ファシリテーション変更
操作負担の軽減
探索から洞察への移行
詳細観察への注目増加
実践重視の議論増加
チーム対話の深化

今後の展望

今後の研究課題として、以下が挙げられています:

  • より多様な保育施設での検証
  • 経験年数の異なる保育士グループでの効果検証
  • 長期的な使用による振り返りの質的変容の観察
  • 画質向上やズーム機能などの技術改善
  • AI分析(視線検出、行動パターン分析、感情認識など)の活用
  • 個別の保育士の成長軌跡に基づくパーソナライズされた振り返り支援

まとめ

この研究は、動画ベースの振り返り支援ツールの継続使用が保育の質向上に貢献する可能性を実証的に示しました。VisRefのような技術的支援により、保育士の振り返りがより深くなり、チームでの協働的な学びが促進されることが明らかになりました。

研究の意義

保育現場における効果的な振り返り文化の醸成と、それを通じた子どもの発達支援の充実に貢献することが期待されます。


参考情報

論文情報
Aoki, H., Owada, S., & Ishibashi, A. (2025). “Verification of the Effects of Continuous Use and Different Implementation Methods of the Video Reflection Tool ‘VisRef’ in Childcare Practice.” IEEE TALE 2025.

研究機関
Sony Computer Science Laboratories, Inc.

協力
Kimitsu Social Innovation Platform (K-SIP)


最終更新: 2025年10月

カテゴリー: 研究成果