乳幼児の手指の巧緻性は、子どもの発達の観点から欠かすことのできない要素です。しかし、子どもの手指の動作を定量化するツールはあまり多くありません。そこで私たちは、子ども用データグローブを開発しています。

開発中の廉価版デバイス

現在、子どもの手指の動きを定量化するためにデータグローブの開発を行っています。このプロジェクトは、岩崎学園 情報科学専門学校(情報校 / 回路やメカ部分担当)と、岩崎学園 横浜保育福祉専門学校(保育校 / 子どもが手に触れる手袋部分担当)との学生コラボレーションにより実施されています。

前バージョンでは曲げセンサーを用いて手の動きを取得していました。曲げセンサーは1つあたり約750円かかり、トータル(片手分)で4500円ほどのコストがかかっていました。今回は曲げセンサーの代わりにジョイコンスティックを用いてコストカットすることで、約半分の2000円ほどに抑えることができそうです

着脱しやすい手袋の作成

このデータグローブを使用するのは乳幼児のため、子どもたちが違和感のないように着脱できることが要件となります。そこで着脱しやすい手袋と回路を組み合わせることを考え、試作しています。

保育校の学生が試作したのがこの、指の第2関節まであるものと手の甲までしかないものの2パターンです。どちらが回路を乗せるのに適しているか、情報校の学生が検討し、ひとまず左側の、第2関節までバージョンを優先的に開発を進めることにしました。

また、もともと指を露出させた手袋に、ミトンにするための袋がついたものがあり、こちらも保育校から情報校への提案があったのですが、現在の電子回路の制約から、ひとまずこちらの採用は見送っています。しかし、今後の開発の状況によって、こちらを使っていく可能性もあります。

3Dプリンタでのデータグローブの部品作成

今回はジョイコンスティックのほかに必要な部品があるため3Dプリンタでの部品作成を行いました。
糸を巻き取るために部品を作成することになり歯車のようなものをコンピュータ用で作成し、3Dプリンタでプリントしました。

3Dプリンタを使ったことがなく戸惑いましたが、入力部分の開発と並行しながらこれからも部品作成をしていきたいです。

既存研究

既存のローコストを謳ったデータグローブには、指でひもを引っ張り、それをWebカメラで撮影するものがあります

このアプローチでは、子どもが装着した際にかなり大きく邪魔になってしまいます。私たちの方法ではこれよりも小さく実装できることが利点です。

Temoche, Pablo, Esmitt Ramirez, and Omaira Rodríguez. 2012. “A Low-Cost Data Glove for Virtual Reality.” XI International Congress of Numerical Methods in Enginnering and Applied Sciences (CIMENICS), May, TCG 31–36.

今後の展望

今後は保育校の方に作成をしていただいたグローブに本格的な回路設計などを行うほか使用する部品を3Dプリンタで作成をする作業、そして子どもたちに親しみやすいようなデザインなどを考えながら徐々に完成形に近づいていくことが出来ればと考えています。今後も情報校と保育校のコラボで実際に使用可能なものに育てていきたいです。

製作:
岩崎学園 情報科学専門学校 土井陽昇, 宮脇 佑太 指導:大和田 茂
岩崎学園 横浜保育福祉専門学校 髙橋萌香, 奥瀬 指導:鈴木晶子

参考資料

  • sketchup (3Dモデル作成ソフト)

初期バージョンのデバイス

子ども用データグローブの要件として、以下を考えています。

  • 安全であること
  • 着脱が簡単であること
  • 子どもの手のサイズにフィットすること

まず安全性については、回路全体を布の袋で包み、基盤などの尖った部分が手に触れないようにしました。着脱は簡単とまではいかないのですが、第一関節部分に装着したゴムバンドの中心に指を差し込むことで取り付けることができます。回路やセンサーは子ども用のアレルギー対応手袋の中に入れてあるので、子どもの手のサイズにフィットします。

内部に含まれる回路です。これはZigBee無線を用いたワイヤレス版ですが、Wi-Fiとも干渉し安定性に難があるため有線版もあります。

データの可視化

指の動作の様子を判断する可視化手法も開発しています。

このツールは、あるタイミングで指が曲がっている度合いを画面上のグラフで表示しており、左右の領域は、指の曲がり度合いの履歴を分析した結果を表示しているものです。

左の図は、画面左側を拡大したものです。上の5×5のマトリクスは指の間の動きの類似性を表示しています(ピアソン相関行列)。これは左手の情報なので、右から左へ親指、人差し指…小指となり、上から下方向も同様に親指、人差し指…小指となっています。赤色が濃いほど、動きの類似性が高いことになります。

これは、発達初期は全ての指を同じように握り、開く状態から、段々に指ごとに別々の動きができるようになることを可視化できます。つまり、全体に同じ色であればそれは発達初期であり、色にムラができてくると発達が進んでいることになります。

下に横方向5つ並んだ四角は、各指がどれくらい動いたかの目安です。さまざまな角度が現れる指ほど、濃い色になります。


これは左手の例ですので、右手であれば左右に折り返した表示となります。

データの分析

この可視化を用いると、子どもの違いによる指の使い方の違いを見ることができます。

上の図では被験者Aは左手の方を細かく使っていることがわかります。Bも左手優位ですが、右手も若干使っているようです。Cは右手だけで、左手はほとんど使っていません。
これは、編んでいる様子を見るとよくわかります。右の写真は被験者Cが三つ編みをしているところです。左手で2本の紐を固定し、右手では残り1本を引っ張ったり、左手の2本に合わせたりして細かく操作しています。
これには利き手が影響しているのかもしれませんが、未調査です。

また、扱っているものの違いもわかります。

この二つ目の例は、穴を開けたボール紙に毛糸を通すというものです。これはクリスマス用の飾りとして使うことができます。
こちらの例では、被験者による差があまりなく、皆両手を同程度用いているようです。

ただし、紐をつまんで操作するという動作は共通のもののためか、薬指と小指の連動が大きいという点は同じようにも見受けられます。

現在は可視化を通じた感覚的な差しか評価していませんので、今後はそれを定量評価することが目標です。
また、装着感には未だ難があり、活動によっては使いづらそうな面もありました。ここも将来課題です。

実験環境

本研究の実証実験には、以下の方々のご協力をいただきました。

  • アイン保育園グループ プロジェクトマネージャー 岡田 鉄平氏
  • アイン三枚町園 高橋 美恵 園長 他 保育士の皆様
  • アインフェスにお越しくださった、アイン保育園園児のご家族様

心より感謝申し上げます。

Publications

S.Owada, H.Sugimura, M.Isshiki, “Toddler’s Hand Motion Acquisition with Hand-Made Data Glove”, The 2022 IEEE 4th Global Conference on Life Sciences and Technologies (LifeTech 2022), Japan, 2022