VR (バーチャルリアリティ)の技術が進み、頭部に装着するHMD(ヘッドマウント・ディスプレイ)も軽く、安価、高解像度になり、身近なものになってきています。またスマートフォンだけでもVRやメタバースを体験できる時代になり、仮想世界への没入がより容易になってきています。
保育現場においても、保育室に行かずとも保育実践に関する研修ができたり、子どもの視点から保育サービスを体験するような教育コンテンツも出てきています。また、遠隔から保育園見学が可能な保育園も増えてきていますね。
私たちも、保育現場の状況を理解し保育スキルを高めるためのVR技術の活用について研究をしています。VRは、場所・時間の制約なく保育現場に入った感覚を味わうことができ、保育環境のサイズ感や子どもとの距離感を感じながらさまざまな体験を提供できるのが利点です。
介入VR
私たちはまず、子どもが望ましくない行動をした場合に保育士が手を差し伸べる関わり方、つまり「介入行動」をテーマにVRを活用しています。保育士は、差し迫った危険性がない限りは、誰でも同じタイミングで介入するわけではありません。
この介入タイミングの差は、保育に対する信念や、それまでの経験、あるいは性格などの影響を受けるのではないか?というのが仮説です。この仮説を検証するために、子どもの行動が段々にエスカレートし、事故に発展するような場面をいくつか作成し、この中で保育士がどのように活動するかを記録するコンテンツを作っています。

さらに、このVR体験を単なるシミュレーションで終わらせず、保育士自身の学びにつなげるための「振り返りワークショップ」もあわせて実施しています。適切な省察(振り返り)を行うことで、自身の保育観を客観視し、実践知を共有する場を提供しています。
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癇癪VR
子どもの体験している世界は、保育園だけではありません。
保育士という子育てのプロフェッショナルによる子育ての現場だけでなく、家庭で奮闘する一般の父親・母親、特に、発達障害のお子さんをお持ちの保護者にも対象を向けようとしているのがこの癇癪VRです。

もし公共の場で子どもが癇癪を起こし、止まらなくなってしまったら、保護者は非常に戸惑うことでしょう。そのような時、何を見て何を考え、どう行動するのか。
これをVRの中で体験し、自分の行動と他の保護者と共有することによって、自分への理解、子どもへの理解を深めます。
保育メタバース
メタバースは、仮想空間内で多くの人物と対話し、行動を共にできるプラットフォームです。この特徴を活かし、様々な専門性を持つ関係者が、遠隔地や時差がある環境からも仮想的に保育室に入り込み、現場の様子を観察・体験できるようにしたとき、何が起こるのかを探索しています。
保育室はプライバシー度が高いこともあり、これまであまり外部に対して開かれていませんでした。これが保育園のサービスの発達を阻んできた1つの原因でもあるのではないでしょうか。
メタバース技術を利用することで、より開かれた保育園が実現し、より良い子育てを実現する現場に発展していくことを目指して研究をしています。

メタバース上では、ワークショップ以外にも様々なイベントを開催しています。

公開している保育園メタバース
いくつかのメタバースワールドは公開しており、Clusterというメタバースプラットフォームから体験することが可能です。以下の画像をクリックすると、Clusterのページに飛びます。

保育園アーカイブ
保育園VR・メタバースプロジェクトの一環として、既存の保育園や閉園する保育園のアーカイブにも取り組んでいます。こちらは千葉県君津市との共同プロジェクトとなり、君津の公立保育園・こども園のすべてと、閉園した保育園三園のスキャンを行いました。
みふねの里保育園
久保・上湯江・常代保育園(令和6年4月閉園)
その他の保育園・子ども園については、順次公開していきます!
[番外編] 松本ピアノ保管庫
君津市の文化資産である松本ピアノの保管庫のスキャンも行いました。
プロジェクト情報・実績
共同研究者
本プロジェクトは、以下の研究者との共同研究の成果です。
実証実験にご協力をいただいている現場
- くらき永田保育園
- 大久野保育園
- 保育園コスモス
論文
介入VR
- 大和田茂, 石橋美香子, 高橋翠「保育士の介入タイミングの差異を計測するためのVRコンテンツ」第200回ヒューマンインタフェース学会研究会「コミュニケーション支援および一般(SIG-CE-27)」2023/5.
- 大和田 茂, 高橋 翠, 石橋 美香子「保育士の介入タイミングの差異を計測するためのVRコンテンツ」同志社大学,赤ちゃん学研究センター紀要, BABLAB はじまりは赤ちゃんから, 2023, No.7, 2023/5.
保育観の差を測るため、CG再現したトラブル場面での介入時間を計測・比較するVRシステムを開発
- 菊地 駿佑, 大和田 茂, 中谷 桃子「VR を活用した統一環境下における保育者の実践共有の試み」ヒューマンインタフェースシンポジウム2025 予稿集,2025/9
- 菊地 駿佑, 大和田 茂, 中谷 桃子「同一VR環境における介入行動比較を通じた保育者の学び」ヒューマンインタフェース学会研究報告集 Vol.27 No.7 pp71-76
VRで再現した同一の保育環境を複数の保育者が体験・可視化し、経験を問わず実践知を共有して保育の質を高める手法を提案
癇癪VR
- 齋藤 杏奈, 大和田 茂, 田岡 祐樹, 齊藤 滋規 「育児者の学び支援に向けた、幼児の癇癪場面のVRでの再現と評価—育児者の判断の可視化と対応行動の記録に基づく検討—」ヒューマンインタフェースシンポジウム2025 予稿集,2025/9
幼児の癇癪場面をVRで再現し、育児者の判断や対応を可視化して学びを支援する手法を提案
保育メタバース
- Taoka, Y., Nakatani, M., Sato, T., Kagohashi, K., Hasegawa, S., Owada, S., & Saito, S. (2026). Collaborative design in social virtual reality with photogrammetric scans: a case of co-design with childcare workers. International Journal of Design Creativity and Innovation, 1–24.
3Dスキャンした保育現場のVR空間で、保育士と設計者が遠隔で試作・検討を行う共創手法を提案 - Taoka Yuki, Nakatani Momoko, Sato Takumi, Kagohashi Kaho, Iwasawa Fuyumi, Hasegawa Shouichi, Owada Shigeru, “Co-Design in Virtual Environments with 3D Scanned Childcare Rooms in Social Virtual Reality.” In Proc. DESIGN 2024
デジタルツインとVRで、現場スタッフが遠隔から直感的に改善案を出す共創手法の有効性を解明 - 中谷 桃子, 田岡 祐樹, 籠橋 香歩, 南部 隆一, 津久井 かほる, 大和田 茂, 岩澤 芙弓, 長谷川 晶一「保育メタバースワークショップ:保育士とデザイナによる共創」ヒューマンインタフェースシンポジウム2023, 2023年9月.
VRで保育士とデザイナーがアバターを介して共創し、制約を超えた環境構成案を生む有用性を示した - 田岡祐樹, 中谷桃子, 籠橋香歩, 南部隆一, 津久井かほる, 大和田茂, 長谷川晶一, 佐藤巧, 菊地駿佑, 齊藤滋規 「保育室を再現したデジタルツイン空間での共創デザインワークショップ手法の探索」第201回ヒューマンインタフェース学会研究会「未来のデザイン:新しいテクノロジーが人/社会の体験をどのように変えるか(SIG-UXSD-17)」2023/6. (ヒューマンインタフェース学会研究会賞受賞)
デジタルツインを活用し、保育士とデザイナーが遠隔で課題把握や提案を行う共創手法を提案