国際保育系学会のPECERAにて、保育園児と海外のネイティブ英語スピーカーをSkypeでつないで会話体験を提供する活動などのご発表をされていた、つるみね保育園の杉本園長から、機会があれば園へ来てくださいと言っていただいていたので、別件で宮崎に行く都合ができたことに乗じて訪問させていただきました。
そのことを事前に知り合いなどに話したところ、杉本先生と知り合いなの!?あのつるみね保育園に行くの!!僕が先に行きたかったのに!などと熱いコメントを多々いただき、ものすごい評判の園だということを知りました。なんでも今年新しい園舎になったとのことで、もともとつるみね保育園を知る方からすると、保育界にかかわるようになって1年ちょっとしかたたない新参者の私がいきなり行くというのは抜け駆けにしか見えなかった模様。自分の運の強さに怖れをいだきつつ、わくわくが抑えられない訪問となりました。宮崎から鹿児島への道中はかなりの濃霧だったのですが、そんな中一人でニヤつきながら運転していたのはここだけの話にしておいてください。
ついにつるみね保育園につきました!
つるみね保育園は、のどかな工業団地の中の、さつまいも畑と桜島みかん畑の間にある、非常に環境のいい園です。
キャリーバッグをひきずって園に到着すると、杉本先生は広大な園庭の傍らでなにやら打ち合わせをされていました。
本当に新しい園舎です!
園舎の入り口横には大きなディスプレイがあり、園の活動や保護者への情報など、でっかく表示されています。すごい迫力!
保護者の方だけでなく、地域の方にも活動の様子が分かって最高ですね!
このサイネージの上に書かれている通り、つるみね保育園は9割のアナログ保育と1割のデジタル保育を組み合わせた「ハイブリッド保育」を10年以上前から提唱、実施されています。今でこそ情報技術やロボティクス、クラウドの有効性は世間の多数が知るところとなり、僕ですらそれらの保育への可能性がはっきり認識できる時代になっていますが、かくも昔からそれに気づき、現場でそれを実践してきた杉本先生の先見性と実行力には目を見張るものがあります。
その取り組みは多数の表彰からもうかがえます。二回も大臣賞を受賞した記念のパネルが、園の正面に誇らしく設置されていました。さもありなん。
実践
教室に入ると、いきなり子どもたちが集まってきて僕に話しかけてくれたのですが、よく聞き取れず、聞き直してみたらなんと英語で「What animals do you like?」と英語で質問されていたのでした!これにはびっくり!!
いきなりのことで動揺してしまい、とっさに前日宮崎で食べた肉料理を思い出して「Cow」だの「Chicken」だのと答えてしまったのですが、当然そういうことを聞かれているわけではないし、それを言うなら「Beef」ですから動揺のほどがうかがえるでしょう(そもそも前日食べたのは馬刺し)。それに対し「I like cats!」と返されたので、はっと我に返って「I like cats too!」などとごまかしたりしました。他にも「What cars do you like?」とか「What vegetables..」などと次々と立派に質問を投げかけてくれて、つるみねキッズの積極性と、しっかりと会話が成立するレベルで英語が身についているところに大変驚きました。
続いて朝のラジオ体操も見せていただきました。司会からして子どもが担当しています。なんでも運動会やそのほか大きなイベントでも、子ども自身が運営するのだとか。積極性や責任感、リーダーシップなど、様々なことを子どもの時から体験してもらおうという園の方針がはっきりと表れていました。
そして肝心のラジオ体操。なんと「ラジオ体操、イタリア語バージョン!」とはじまり、なにやらイタリア語の掛け声や歌声に合わせて、子どもたちが楽しそうに体を動かし始めたのには大爆笑してしまいました。毎日言語が変わるそうです!これだけいろいろな言葉を聞き続けていれば、単に子どもの言語能力という面だけでなく、世界には異なった文化が多数存在していて、自分たちはその中の一つの中に生きているんだという実感を得られるに違いありません。「外国語のお勉強をしましょう」という形ではなく、楽しみながら様々な言語を体験できる、素晴らしいアイデアだと思いました。
次にPepper時間です。
Pepperはご存じ、ソフトバンクロボティクスで開発されている人型ロボットです。非常に話題のロボットだったので私も触ったことがありますが、正直言うとコミュニケーションロボットであるにもかかわらず音声で意思疎通をすることがなかなか難しく、興味がなくなっていました。実は僕は、これを保育で使うなんてどうやるんだろう?子どもがすぐ飽きてしまうのではないかな?などと心配していました。結論から言うと、全くそんなことはなくPepperは非常に役に立っていました。つるみね保育園ではPepperを、コミュニケーションロボットとしてではなく、歌を歌いながら踊ったり、英単語学習のための、親近感の湧くお手本として用いていました。ジェスチャー付きのCDプレイヤーのようなものです。より子どもの身長に近いペッパーが身振り手振りを交えながら歌や踊りをガイドしてくれたり、ネイティブの発音で英単語を教えてくれるわけです。これなら親しみも湧くし、情報が伝わりやすいし、英語の発音はネイティブだし、というわけで、この使い方であれば、ペッパーの苦手なところをうまく避けつつ、子どもたちと楽しい時間を過ごせますね!
つまり僕の心配は全くの杞憂だったのでありました。道具は使いようですね。ほかのところからも感じたのですが、つるみね保育園の一番素晴らしいことは、ネットであれ情報機器であれ、その特徴をつかんで適切に活用することに長けているということです。だからこそ時代に先駆けてデジタル保育に取り入れ、自然な形で現在も続けることができているのだと思います。
そしてハイブリッド保育の「本丸」(杉本先生曰く)の、デジタル時間です。まずは、保護者が送ってくれた写真を使った写真を使って、発表役の子どもがそれを説明し、聞いている子どもが質問するという形式。実をいうと、子どもにプレゼンテーションなんて必要なのだろうか?つらくないだろうか?などと思わないでもなかったのですが、実際見たらその認識は全く間違っていました。保護者が送った写真であれば自分の体験したことだし、プレゼン時間も測ったわけではありませんが1~2分程度。それに対して質問も同じくらいの時間。全然負担ではないし、むしろ視線を浴びながら何かを説明し、質問に答えていくという体験は、将来海外の人たちと対等にやっていくうえで絶対学んでいかなければならないことだし、その前提として「自分の言葉で考えを伝える」「質問という挑戦を受け、それに対処する」というマインドに慣れておくことは必要なスキルだと実感できました。保護者から送られてくる写真で、というのもよいと思います。保護者のコミットメントを期待できるし、うちに帰ってからさらに話題を盛り上げることもできると思います。この取り組みは本当に素晴らしいので、いろいろな園で採用すればいいのに、と全く考えが変わりました。
また、英単語学習用のアプリもほんの短時間子どもにやらせていましたが、一人が遊んでいる様子をほかの子が見るという形をとっていました。また、ゲームを開始する前に、次にプレイする子と簡単な英会話を交わすこともやっていました。これにより、社会的スキルを学びつつコンテンツから学べるようになっていました。これも一人で画面ばかり見て没頭するのを防ぐ効果もあるし、巧妙なかかわり方だと思いました。
つるみね保育園のデジタル保育はここで紹介したものに限るものではなく、ほかにもAR体験や、リアルとバーチャルが一体化した新しい玩具体験など、枚挙にいとまがありません。しかし、デジタルだからとなんでも採用するのではなく、保育に実際に有益な、新しい体験を子どもに提供できる厳選されたものだけを取り入れ、それもよく考えられた無理のない使い方を探し出して利用されていました。
園庭と杉本先生のこだわり
園庭は本当に広大で、起伏に富んでいます。低年齢は庭で遠足ができるそうです!
園庭で遠足!!僕の中での遠足の概念が変わった瞬間でした。
子どもの発達に合わせて、小さい子が登ると危険がある箇所にはそもそも登れないような勾配をつけたり、遠方の山が見えるような高台があったりと、様々な工夫がこらされています。驚いたのはこれらの庭の構築や植栽など、杉本先生自身がされているとのことです!100本以上の木もご自身で植えられたそうです。すごいバイタリティ!
あとでお伺いしたのですが、最初に打ち合わせをしていたのは排水をよくするための工事について相談していたのだそうです。今後も庭の開発に力を尽くされるとのこと。園児やスタッフも楽しみにされていると思いますが、もう趣味にしか見えません!(笑
写真はとりそびれたのですが、園庭の一角に「皇帝ダリア」という植物が植えられており、つぼみを膨らませていました。あたりを皇帝ダリアで埋め尽くすのが杉本先生の夢だそうです。
記録
スタッフ間の連絡にはednityという学校向けSNSを用い効率化を図っています。このサービスの開発には、杉本先生自身が深くかかわられているそうです!
各部屋にednityのためのタブレットが置かれており、子どもの記録はスタッフが、保育室の中でタブレットに入力しておしまいだそうです。
園長からの連絡、ヒヤリハット報告などもednityを活用し、すぐにスタッフ全員と共有できるとのこと。
保護者への連絡には、KidsDiaryを使われているそうです。
まとめ
輝かしい受賞歴をはじめ対外的にも非常に目立つ園ですが、そのためのデジタル保育ではなく、テクノロジーが子どもにどのような新しい体験を提供し、どんな人材に育っていくのか、未来の保育にテクノロジーがどのように貢献できるのか、という可能性を真剣に模索している園だと思いました。ともすれば保護者向けのアピールにとどまってしまいがちな英語教育も、デジタルやロボットの力も借りつつ、子どもが楽しみながら多くの言語体験をして、かんたんなやり取りならできるまでに育てることに成功していることは本当に素晴らしいと思います。
子どもにタブレットを触らせたり、映像を見せることにためらいがある人は多いと思います。かくいう僕も、情報技術が子どもにどのように影響するのか怖れのほうが大きく、自分が子どもだった頃のかかわりを踏まえてかなり制限したかかわりかたを許すにとどまっています。なかなか挑戦するのが難しいテーマだと思います。
つるみね保育園では、その有効性と危険性の境界をはっきりと見極めたうえで、無理なく教育に生かしており、その比率も1割というラインを設定されており、その匙加減が絶妙だと思います。子どもたちもどれかに没頭しすぎることもなく、園での生活を楽しく過ごしているように見えました。
この新しいものに対する偏見のなさ、良い要素を的確に見つけ出し、いち早く実践につなげていく杉本園長の力は、まさにこの鹿児島の地で西郷隆盛はじめ幕末の志士を多数育て、維新の原動力を作り出した島津斉彬公そのものだと思いました。
つるみね保育園に、これからも注目していきたいと思います。
余談
折角の訪問なので僕もなにかしようと思い、古いエレキバイオリンを持っていったところ、園長先生がギターを弾かれて、子どもたちや他の先生方とも一緒に演奏する体験をすることができました!
実は僕は外でエレキを弾くのは初めてで、持って行ったスピーカーの音量が足りず、無理に上げたところガンガンに音割れをしてしまいあまりかっこよくはなかったというトラブルもありましたが、楽しい時間となり感謝しています。
どうもありがとうございました!