子どもが長時間を過ごす保育現場では、さまざまな素晴らしいこと、美しいこと、驚くようなことが起こっていますが、同時に多くの課題があることも事実です。
私たちは、こういった現場について、良いこともそうでないことも、多様な立場や背景・スキルを持った人、異なった観点を持つ人と共有し、共に楽しむとともに、課題解決に取り組んでいきたいと思っています。
一方で、保育室は生まれたばかりの人間を育むデリケートな場であり、見慣れない人物が不用意に現れることで、子どもが緊張・興奮し、普段とは違う振る舞いが起こってしまうこともあります。こうなると、子どもの発達や保育活動に支障をきたすのみならず、多様な人々が普段の保育活動を観察し、考えるという目的も果たすことができなくなります。また、プライバシーの問題も、当事者のみならず保護者にも関わるという性質上、シビアに解決しなければいけないという難しさもあります。
そこで私たちは、東京工業大学 中谷先生らとともに、バーチャルリアリティ技術を用い、遠隔地や時差がある環境からも仮想的に保育室に入り込み、現場の様子を観察・体験できるようにしたいと考えています。また、その空間内で当事者や他の仮装入室者などと話し合い、現場改善について知恵を捻ることができる、保育メタバースを構築したいと考えています。
保育メタバースは保育園デジタルツイン(現実そっくりの環境をコンピュータ内に仮装的に再現したもの)とコミュニケーションプラットフォームからなり、要素技術として三次元カメラ、行動認識AI、センサーシステム、保育士の主観情報入力のためのスマホアプリ、HMD(ヘッドマウントディスプレイ)などを用いています。これらは、要素としてはこれまでも存在していたものですが、これを統合し、保育環境のメタバース化が実現される意義は小さくないと考えています。
本プロジェクトは2022年度からの国立研究開発法人 科学技術振興機構 (JST) 未来社会創造事業 次世代情報社会の実現領域 探索研究 「ケア現場の当事者と専門家の共創を可能にする メタバースプラットフォームの実現」( 研究代表者:中谷桃子)として採択され、現在アクティブに研究が進められています。
保育メタバース関連活動
ワークショップ以外にも、様々なイベントを開催しています。
いくつかのメタバースワールドは公開しており、Clusterというメタバースプラットフォームから体験することが可能です。以下の画像をクリックすると、Clusterのページに飛びます。
論文
- Taoka Yuki, Nakatani Momoko, Sato Takumi, Kagohashi Kaho, Iwasawa Fuyumi, Hasegawa Shouichi, Owada Shigeru, “Co-Design in Virtual Environments with 3D Scanned Childcare Rooms in Social Virtual Reality.” In Proc. DESIGN 2024
- 中谷 桃子, 田岡 祐樹, 籠橋 香歩, 南部 隆一, 津久井 かほる, 大和田 茂, 岩澤 芙弓, 長谷川 晶一「保育メタバースワークショップ:保育士とデザイナによる共創」ヒューマンインタフェースシンポジウム2023, 2023年9月.
- 田岡祐樹, 中谷桃子, 籠橋香歩, 南部隆一, 津久井かほる, 大和田茂, 長谷川晶一, 佐藤巧, 菊地駿佑, 齊藤滋規 「保育室を再現したデジタルツイン空間での共創デザインワークショップ手法の探索」第201回ヒューマンインタフェース学会研究会「未来のデザイン:新しいテクノロジーが人/社会の体験をどのように変えるか(SIG-UXSD-17)」2023/6. (ヒューマンインタフェース学会研究会賞受賞)
- Sawako Fujita, Yuki Taoka, Shigeru Owada, Momoko Nakatani, Shigeki Saito. 23-28 July 2023. “Towards Co-Design with Day Care Teachers Based on in-Situ Behavioral Data: A Case Study of a Workshop for Reflection Based on Video Recordings.” In HCI International 2023 (25TH INTERNATIONAL CONFERENCE ON HUMAN-COMPUTER INTERACTION).